福祉従事者Q&A

【目次】

Q&A1.【訪問入浴サービス利用時のMRSA保菌者への留意点について】

Q&A2.【身体障害者養護施設での感染対策】

Q&A3.【重複障害学級におけるMRSA感染児童への対応】

Q&A4.【特養ホームでの肝炎ウイルス抗体陽性・梅毒血清反応陽性の入所者への対応】

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 Q&A1.【訪問入浴サービス利用時のMRSA保菌者への留意点について】

居宅支援事業所でケアマネージャーをしています。MRSAに感染している利用者の訪問入浴車での入浴を考えていますが、その際の消毒方法、また介護するヘルパーが気をつける事項を教えて下さい。

MRSA専門家(医学部教員)コメント】

単に保菌しているだけの方でしたら、通常の入浴で大丈夫です。出来れば、新鮮な“あがり湯”をかけてあげたら如何でしょう。ヘルパーの方も最後に「手洗い」と「うがい」さえしておけば問題ないと思います。入浴後の消毒も通常のもので充分ですが、隅々まできれいにこするような作業での清掃をして下さい。保菌者の場合、無症状であれば問題はありませんから、特別な対応は必要ありません。介護者にとっても特別な対応は必要ありません。「手洗い」と「うがい」だけで充分です。気管切開されている方の場合は、治療が必要になりますが、切開部の創部感染から喀痰にMRSAがついて出てきているのか、肺炎、気管支炎があり、そこからMRSAが出てきているのか、その区別が必要です。創部感染の場合はABPC1gを5mlの注射用蒸留水に溶解して、その0.5mずつを数カ所に局所注入します。開放部は、可能であれば0.1%ピオクタニン(ゲンチアナバイオレット)を綿球につけて消毒します。また、濃いお茶を綿球につけて、もしくは噴霧で消毒可能です(この場合は、医薬品ではないので時間がかかりますが)。単に保菌している場合と感染症が発症している場合とは完全に区別して対応されて下さい。保菌者の場合は、むやみに気を使う必要はありません。先ほど書いたように、「手洗い」と「うがい」で充分です。しかし、感染者の場合は本人自身と周りへの対応が必要になります。

【看護師(訪問看護ステーション所長・ケアマネージャー有資格)】

まず、MRSAに感染しているといっても、全身に感染しているわけではありませんから、感染部位の確認が必要です。また、保菌しているのか(その部位に菌があるだけでなにも症状がない)、発症しているのか(何らかの感染による症状があるのか)によって対応が異なることを念頭においてください。利用者ご自身が訪問入浴をお考えとのことですから、おそらく保菌状態ではないかと仮定してコメントいたします。保菌状態であれば(たとえば喉に菌があるとか)、通常の入浴でかまいません。もし、褥そう等の場合は密封状態を作るなどの工夫をすればいいでしょう。ヘルパーさんに関してですが、通常の生活を送ることのできる方に関しては感染の心配はしなくてもよいですが、ただしその方の手を介して他のご利用者への媒介とならないように訪問前後に石鹸と流水で手洗いをすることと、うがいをしていただければよいでしょう。MRSAに感染している方は、抵抗力が低下しているために感染したのですから、他の訪問先からの菌を運ばないように、訪問したらまず初めに手洗いをしていただくようにご指導ください。がんばってください!

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Q&A2.【身体障害者養護施設での感染対策】

これまでにも何名か保菌(MRSA)した職員がいたのですが、症状が出た人はおりません。今回、仕事のなかで保菌した職員が入所者の胃瘻部位をケアしますが、該当職員に対してどう対応するべきか、目安を教えて頂ければと思います(身体障害者療護施設・施設長)。

MRSA感染症専門家(医学部教員)コメント】

保菌の状態であれば無闇に心配なさる必要ありません。恐らく鼻腔、咽頭での保菌状態と推測しますが、これが最も一般的な保菌状態です。身体障害者の方で、カテーテル留置とか気管内挿管されている方等はいらっしゃいますか? そのような方にはある程度の配慮が必要になってきますが、如何でしょうか? そのような方がいらっしゃらなければ、ごく普通の生活でも構わないと思います。ただ、職員にはその旨通知していただき、外気交換は頻繁に行うように努めて下さい。また、保菌者に風邪などの症状が認められるときは、その対応は早めに行うこと。当然、保菌者の鼻水等に非保菌者が触れない環境づくりが必要になってきます。基本的に保菌者だからと言って、普段の生活で特に気を付けることはありません。くれぐれも神経質にならないように、その人達が差別を受けることがないようにご配慮をお願いします。胃瘻の方と接触するときは、接触前に肘から手までを洗って下さい。出来れば胃瘻造設には接触しないでください。接触する場合は、可能なら使い捨て手袋、もしくはイソジンでの手の消毒後に接触するようにして下さい。

【看護職(外科系病棟勤務歴8年)コメント】

保菌されています方は、医療従事者ですか? それとも、医療的処置に直接関わられない方ですか?それによって、対応が異なると思います。医療処置に直接関わられない方であれば、(鼻腔、咽頭の保菌と仮定して)手洗いを励行していただくなどで、十分ではないかと思います。鼻水などをあちこちに捨てたりしないでしょうし…入所者の方にMRSAの保菌者がいたときと同様ですよね。さらにご自身の健康管理をきちんとしていただくことも必要ですね。あとは、保菌している方を差別しないように職員の方にご説明していただければと、思います。

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Q&A3.【重複障害学級におけるMRSA感染児童への対応】

養護学校の養護教諭です。本校の重複障害学級の児童で、入院中にMRSAに感染し、保菌者となった子がおります。この子への対応についてお伺いします。この子は先日退院してきまして、今後は無理のないように登校してくる予定ですが、この子の入るクラスには、経管栄養の肢体不自由児(自宅では吸引実施)がおります。この子たちを同じ教室に入れて授業を受けさせてもよいか、またよいのなら、配慮すべきことは何かについて、質問させていただきます。

MRSA感染症専門家(医学部教員)コメント】

保菌場所(例えば鼻腔、咽頭、表皮)は解りますか?保菌場所によって、対応が異なってきます。鼻腔、咽頭であれば、激しい咳とか鼻水が出ていなければ特別な対応は必要ありません。経管栄養のお子さんとも同じ教室で勉強なさっても問題はありません。表皮であれば、汚染が広がりますから除菌の必要があります。除菌後の登校が無難でしょう。それが無理であれば、出来れば、経管栄養を行っている子供との接触は少なくした方が良いと思います。経管栄養のチューブがどこから入れられているのか解りませんが、経鼻であれば鼻の微粘膜と咽頭粘膜が弱まっていますし、胃とか腸への直接的挿管であれば、その挿入部は易感染状態になっています。

【看護職(外科系病棟勤務歴8年)コメント】

ご相談をされました退院直後の児童がMRSAをどの部位に保菌されているのでしょうか?また、同教室内の肢体不自由児の子は、気管切開をされているか、学校内でも吸引を必要としているのでしょうか?退院直後の児童が痰からMRSAがでている、学校では吸引を行っていないと、仮定してコメントをいたします。まず、強い咳をしていなければ、同じ教室内でかまわないと思います。この児童のMRSAが出ている部位のケアを行うときは、(他の児童に感染させない観点から)手袋を装着してください。そして、その手袋は何回も使いまわしせず、捨ててください。また、流水と石鹸による手洗いも励行してください。他の子に関しても、先生たちは感染などに気を使われていますよね?それと同様に扱われてかまわないのではないかと、思います。児童が入院して、感染するとは、切ないお話ですね。なにかありましたら、またご相談ください。

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Q&A4.【特養ホームでの肝炎ウイルス抗体陽性・梅毒血清反応陽性の入所者への対応】

特養で看護師をしています。B型肝炎・C型肝炎ウイルス抗体陽性および梅毒血清陽性の入所者のことですが、発症していなければ感染症のない方と同じく対応して良いと思いますが、介護スタッフから表皮剥離などの危険があるので入浴は最後にし入浴後は浴槽を消毒すべきだといわれます。入浴中に出血したならば消毒が必要と思いますが、入浴して出血がなければ浴槽消毒の必要性はないと思い文献を調べましたが、消毒しないでよい根拠が見つからず困っています。従前より居室やトイレの床、手すりなどは塩化ベンザルコニウムで清拭しています。職員の処置後は消毒液で手指など噴霧します。浴室の床や椅子は消毒液で掃除していますが、住居用洗剤や風呂用洗剤、トイレ用の洗剤で十分に思います。ただし手すりなどの多くの方が触る場所は塩化ベンザルコニウムやアルコールで清拭し、保菌者の方などが出血した場合には汚染したものを次亜塩素酸ナトリウム希釈液消毒で十分ではないかと思います。職員も利用者も手洗いと手指消毒をすれば大丈夫と思いますが、高齢者の施設であることで徹底してやるべきでしょうか。

【看護師(外科系病棟勤務歴8年)コメント】

施設内での対応は、ご相談者が認識されていることで十分だと思います。ただし、保菌者と発症者の違いに対する知識が不足していると、どうしても過剰に反応してしまうことも多いようです。このことは高齢者施設ではMRSAについてもよく起きている問題だと思います。この際、MRSAをも含めて保菌と発症の違いについての勉強会をされてはいかがでしょうか?実際、これまで受けたご相談では、ヘルパーさんのなかにはMRSAを保菌していると全身から菌がでているというように考えてしまう方もいらっしゃいます。発症と保菌のちがいの勉強会をみなさんで企画してはいかがでしょうか?

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