MRSAとは?

  MRSAは、メチシリン・レジスタント・スタヒロコッカス・アウレウス(methicillin-resistant

Staphylococcus aureus)の略語で、メチシリン(抗生物質の名称)に耐性を獲得した黄色ブドウ球菌を意味する英語名に由来しています。

 

 黄色ブドウ球菌はグラム陽性球菌の一種で、化膿性炎(皮膚化膿疾患、中耳炎、結膜炎、肺炎)、腸炎(食中毒含む)など創傷感染、呼吸器感染、消化器感染の原因菌です。

  

 MRSAは、黄色ブドウ球菌の治療薬のβ(ベータ)ラクタム系抗菌剤(ペニシリン、メチシリン、クロキサシン、オキサシリン、第1・2・3世代セフェム)に耐性を獲得したもので、その耐性遺伝子はファ-ジを介したrプラスミド(ミニプラスミド)上の耐性遺伝子や由来不明の転移性遺伝子mec(メック)Aで伝搬されます。

  

 当初はメックA遺伝子のブドウ球菌間の伝達機序は全く不明でしたが(メチシリン耐性ブドウ球菌:MRSには、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌、メチシリン耐性表皮ブドウ球菌さらにメチシリン耐性スタヒロコッカス・ヘモリティカスが知られています)、自由に移動することの出来るカセット染色体(後述)上に乗っかり、ブドウ球菌本体の染色体に組み込まれたり、切り出されたりすることが順天堂大学医学部細菌学教室のグループにより解明されました。

  

 MRSAは1961年に英国で最初に報告されました。米国では1970年代に、国内では1980年代になって報告されるようになりました。MRSA出現の背景には、医療現場での抗生物質の乱用が指摘されています。

  

 現在は多剤耐性MRSAが主流となり、その治療の切り札としてバンコマイシンが用いられていますが、近年バンコマイシン耐性腸球菌(VRE:バンコマイシン・レジスタント・エンテロコッキー)の急速な院内感染の広がりが見られるようになり、VREからバンコマイシン耐性遺伝子がMRSAに伝搬されることが危惧されています。実際に、VREからの耐性遺伝子の伝播ではありませんが別の機構から、バンコマイシン耐性を獲得したヘテロ耐性MRSAが、国内でも院内感染として確認されるようになりました。

  

 なお、MRSAの種類は、平松らによればメチシリン耐性遺伝子(メックA:mecA)が乗っている「ブドウ球菌カセット染色体」(SCCmec:Staphylococcal casette chromosome mec;順天堂大学医学部細菌学教室命名)の塩基配列の違いから、大きくタイプⅠ・Ⅱ・Ⅲに大別されます。このカセット遺伝子にはβ-ラクタム耐性、マクロライド抗生物質耐性、アミノ糖抗生物質耐性、テトラサイクリン耐性などの種々な抗生物質耐性遺伝子が集中し、実験的には容易に黄色ブドウ球菌の染色体に挿入・追い出しが可能で、MRSAからMRSS(抗生物質が有効な通常の黄色ブドウ球菌)や、MRSSからMRSAへの変身が一晩で可能とされています。このために、MRSAと黄色ブドウ球菌とは基本的な染色体情報に違いはなく、このカセット遺伝子を有すか否かの違いであって、MRSAは黄色ブドウ球菌そのもとされています。

  

 カセット染色体の3つの大きな種類と、この3タイプの分類とは別個の、黄色ブドウ球菌のリボゾームRNAのリボタイピングによる分類1~53種類をさらに大きくA・B・C3つのタイプに括って分類)とを組合せた分類法がなされています(カセット染色体Ⅰ・Ⅱ・ⅢとA・B・Cのリボタイプとの組合せで、世界には5つのクローンのMRSAが存在していることが明らかになっています。

  

 日本のMRSAは、上記の分類法よりクロノタイプⅡ-Aが1990年代の全国調査でMRSA分離株の70%以上を占めていました。このタイプは米国内でも分離されるということで、また、バンコマイシン耐性MRSAはⅡ-Aのクローンから容易に生じやすいことが知られています。平松らによれば現在もMRSAは進化し続けています。

 

参考・引用文献:

(一般向け参考書)

平松啓一著「抗生物質が効かない」集英社(1999年初版)の第三章「史上最強の耐性菌MRSA」103-163頁

 

(原著) 

伊藤輝代・片山由紀・平松啓一(2000年):メチシリン耐性の伝播に関与するmobile genetic element (Staphylococcal cassette chromosome mec), 日本細菌学雑誌 55(3)483-498