医療従事者Q&A

【 目次】

Q&A1.【MRSA感染症治療時での病棟薬剤師から主治医への情報提示について】

Q&A2.MRSA保菌者と新生児との同居について】

Q&A3.【病棟で使用した器材の消毒方法について】

Q&A4.【療養病床現場での院内感染対策実施とCDCガイドライン適用について】

Q&A5.MRSA肺炎の病室感染対策について】

Q&A6.【感染予防としての鼻腔内へのイソジンゲル塗布について】

Q&A7.【点滴ライン感染予防における消毒剤の使用法について】

Q&A8.【便培養でMRSA(3+)が検出された際の消毒法・院内感染予防について】

Q&A9.【新生児のMRSA感染予防策での沐浴とガウンテクニックについて】

Q&A10.【易感染者に対しての予防的ムピロシン軟膏塗布について】

Q&A11.【診療科別の院内感染対策マニュアルは必要か?】

Q&A12.MRSA個室隔離時のリハビリ利用制限とリネン類の10時間放置処置への疑念】

Q&A13.MRSA除菌でのムピロシン軟膏使用後の対応】

Q&A14.【在宅医療での吸引チューブの消毒・保管法について】

Q&A15.【疥癬患者退院後の病室、リネン類消毒の有無とその根拠】

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 Q&A1.MRSA感染症治療時での病棟薬剤師から主治医への情報提示について】

高齢の患者さんで肺炎を悪化させ、内科病院に転院後に軽快し帰院しました。帰院時、褥瘡部にMRSA+)その後、発熱がある度に、ケフラール、フルマリン、クラビットなど投与(投与間隔はあいている)。*月頃より、喀痰よりMRSA検出。ミノマイシン感受性菌のため、ミノマイ100mg/day経口投与。陰性にならないためタゴシットを1週投与。37度台で解熱しないためと、耐性菌を心配し、ハベカシン投与するが、薬疹が出て1日で中止。それと前後した感受性試験でMRSA陰性となるが発熱は続く。薬疹がでたため、強力ネオミノファーゲンシーを約2週間投与。再び、MRSA3+になり、タゴシット2週投与。現在MRSA1+。担当医はミノマイの注射を検討したが、再度ミノマイシン50mg12回の内服の指示。添付文書を担当医に見せたところ、100mg12回に変更。発熱が続き、咳、喀痰がひどい。食事は良好ですが、痩せています。薬局として、体温、投与薬剤、MRSAの陽性・陰性などを、グラフにして主治医に提示したのですが、気になるのは、MRSAが陰性時でも、発熱、喀痰が続いていることです。MRSA以外に原因が疑われます。薬剤師としてどのような情報を主治医に提示すればよいでしょうか。 病院薬剤師

MRSA感染症専門家(医学部教員)コメント】

タゴシッドはβ(ベータ)-ラクタム薬と併用しましたか?また、ローデングドーズも行っていますか?さらに、それと前後した感受性試験でMRSA陰性後も続く発熱の原因は何ですか?薬疹後の投薬内容と症状を見る限り、MRSAが残っていたことが考えられます。MRSA肺炎の前段階なのでしょうか?できれば、タゴシッドとユナシン、もしくはメロペネムの併用で様子をみては如何でしょうか?薬剤師として、どのような情報を提示していけばよいかとの問いですが、是非、グラフにして担当医にお見せください。その場合、抗菌薬の投与期間、発熱、CRPWBC(白血球値)の動き、MRSAの検出状況(どの部位からどのくらい)。おそらく痰と発熱はMRSAが原因だと思われますが、痰からMRSA以外の病原菌は検出されていないのでしょうか?MRSAのみが原因とした場合、アルベカシンは使用できないでしょうから、基本的にバンコマイシンかタゴシッドになります。バンコマイシンを使用する場合は、バンコマイシンとβ-ラクタム薬の併用によって、バンコマイシン耐性が誘導されるMRSAが存在しますから、バンコマイシンは単剤使用が望ましいと思います。また、タゴシッドはβ-ラクタム薬と強力な相乗効果を示しますから、併用をお勧めします。この2剤を中心として、ミノマイシンに感受性を維持しているなら、これを加えたサイクリング療法が可能です。たとえば、タゴシッド+メロペネム→ミノサイクリン+ファオスフォマイシン→バンコマイシンを繰り返します。これによって耐性菌出現の抑制と副作用の軽減ができるはずです。おおむね一週間程度のサイクリングでいいと思います。

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Q&A2.MRSA保菌者と新生児との同居について】

脳梗塞後遺症のため入院中のご高齢者。在宅介護希望ですが、ご自宅には新生児がいます。咽頭ぬぐい液ならびに尿からMRSAが検出されていますが感染徴候はありません。嚥下障害のため胃瘻管理中。また、唾液等の管理のため吸引が必要です。院内ではいわゆるスタンダードプリコーションを行っておりました。新生児との同居は、避けておくほうが無難との意見が医局内での多数を占めておりますが、接触時の注意で、在宅に踏み切っても良いものか悩んでいます。 医師

MRSA感染症専門家(医学部教員)コメント】

難しい判断だと思います。在宅を希望されているからにはそれなりの理由が存在するからですし、といって、簡単にMRSA保菌者を帰していいものかどうか。原則的な判断をするなら、少なくとも尿からのMRSAが消失してから帰宅という判断が妥当と思います。唾液吸引が必要な方から、咽頭の除菌は困難です。また、咽頭に保菌しているからといって、発症していなければ対応は必要ありません。しかし、胃瘻は容易にMRSAが感染してしまいますから、その対応(ゲンチアナバイオレットでの消毒)は必須です。尿から検出されるMRSAが何に由来しているのか気になりますが、カテーテルを留置されていますか? カテーテル性のものであればさほど心配はいらないと思います。何れにしても、御家族が在宅を希望されている以上、それに沿った対応を考える必要があるでしょう。新生児がいらっしゃっても、在宅看護の教育(手洗い)をしっかり行えば、問題ないと思います。手洗い、リネン類や医療器具の処理方法を解りやすく在宅で実行可能な対応さえ教えていれば、新生児がいてもいなくても汚染は防止できますから。また、新生児はNICUのことを考えて頂ければ解るように、MRSAについては結構強い性質を持っています。NICUMRSAで汚染されていますが、MRSAの保菌が確認されるだけで、めったに発病はしません。また、そのような劣悪な環境の中でもすくすくと育つ力を持っています。

【訪問看護師(訪問看護ステーション所長)コメント】

まず、在宅介護を希望されている方はどなたでしょうか? 主介護者となるご家族は、この方が在宅へ移行されることをどのように考えているのかにより、対応は異なってくると思います。もし、ご本人、ご家族ともに在宅療養をご希望されているのでしたら、私が担当の訪問看護師なら在宅療養を勧めると思います。医療者が思っている以上に、家族にはできないと思っていることでも(家族が帰したいと考えていれば)、想像以上に力を発揮するもので、指導されたとおりに手抜きせずに介護をしている例をこれまでに多々経験しています。介護者を介した新生児への感染予防対策面では、吸引や唾液、尿に触れるようなときはディスポグローブ(補注:使い捨て手袋)を使用していただき、その前後に手洗いをしていただくことを徹底するようにご家族を指導してはいかがでしょうか?

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Q&A3.【病棟で使用した器材の消毒方法について】

中規模病院で薬剤師をしております。今年から実働的な院内感染対策委員会が設置され、薬剤部を中心に消毒法の見直し・統一を図っています。各部署の消毒法についてのアンケート集計作業の過程で、看護部より「MRSA陽性・ワ氏(梅毒血清陽性)患者様に使用したガラス・プラスチック・金属器具の消毒容器を一般患者様のものと分ける必要があるか?」との質問がありました。現行では一般患者様、MRSA陽性-ワ氏陽性患者様、ウイルス陽性患者様とで器具の消毒薬浸漬容器を分別していますが、それぞれ02%塩酸アルキルジアミノエチルグリシン30分以上浸漬後に水洗をし、その後にオートクレーブ滅菌という消毒方法を行っています。MRSA陽性患者様に使用した器具は、浸漬時点では区別されていますが、オートクレーブにかける時点で一般患者様の器具と一緒になっています。現行の消毒法で問題なければ、一般患者様とMRSA陽性-ワ氏陽性患者様の浸漬容器を区別する必要はないと思いますが、もし、感染症患者様用の器具は完全に区別しなければならないのであれば、消毒方法を改善しなければなりません。薬剤部では、必要ないのであれば病棟看護師の業務負担を軽減する意味から浸漬容器の区別は廃止した方が良いのではないかと考えていますが、どのように対応するのが最も適切でしょうか。この疑問点を委員会で相談したところ、「他の病院でも分けていますよね。」との意見がありましたが、果たして根拠に基づき区別しているのかどうかわかりません。それとも、浸漬容器を分けているだけではなく感染症患者様には、専用の器具を使用するところまで徹底して区別しているのかもしれませんが。

MRSA感染症専門家(医学部教員)コメント】

オートクレーブをかけるのであれば、その前に消毒・滅菌する必要はありません。滅菌はオートクレーブで充分です。しかし、汚れがひどければ滅菌は不十分になりますから、そのまえの洗浄が重要になります。これは、あくまで感染汚染のない器具・物品の場合であり、汚染が危惧される場合は消毒薬を使用した洗浄・滅菌が必要になります。感染が危惧されるものかそうでないかは分けて考えてください。汚染物質であれば、そのまま消毒薬に一晩ほど浸し、その後洗浄してオートクレーブにかけられた方がいいと思います。そうすれば、MRSAであっても同じ方法で対応できますから。

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Q&A4.【療養病床現場での院内感染対策実施とCDCガイドライン適用について】

療養病床で院内感染対策委員をしています。様々な研修に参加しますが、その都度にMRSA感染対策としてCDCのガイドラインを目にします。そのガイドラインはその菌に対するものであり、自分自身でもMRSA対策には必要不可欠で、その通りに対策しなければいけないと思い行動しました。しかし院内感染対策委員長から、療養病床ではそこまでしっかりと対策しなくてもよいと指摘されて困惑しています。療養病床でのMRSA対策はどの程度実施すればよいのでしょうか?

MRSA感染症専門家(医学部教員)コメント】

CDCのマニュアルは特定の病原菌に対するものではなく、例えばスタンダードは、極当たり前に行うことであり、ユニバーサルは病原菌の伝播経路にそった対策方法です。一般的にはスタンダードで充分だと思います。本質的に療養所では、処置前の手洗いとリネン類の規則的な交換及び清掃が必須だと思います。CDCのガイドラインをそのまま実行しますと、人件費、設備費、消耗品費等によって、おそらく経営に大きな負担がかかってくるのではないでしょうか? CDCのガイドラインは参考にして、各施設で対応可能なマニュアルを作成することが必要です。

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Q&A5.MRSA肺炎の病室感染対策について】

患者さんの現病暦はMRSA肺炎です。抗生剤も投与されています。現在、患者さんの部屋を隔離していますが自分の予防衣は脱いで患者さん専用の予防衣を部屋の中においてあるのを使用しています。患者さんの部屋の予防衣は、週に一回消毒をしてから洗濯をしています。これで、適切でしょか?また、MRSAの消毒についてご教示願います。

MRSA感染症専門家(医学部教員)コメント】

MRSA肺炎の患者さんで、感染をコントロールするための条件として、咳をしているかどうかが重要な問題になります。もし、咳がなく痰だけでしたら、予防衣の必要はありません。むしろ、使い捨ての手袋が必須です。激しい咳をしているようでしたら、現在の予防衣をして下さい。しかし、ケア直後には簡単な70~80%アルコール噴霧をされたら如何でしょうか。我々が使用する消毒薬は70%アルコールですが、頻回に使用すれば手荒れが起きますから、その点で推奨できません。容易に使用できるとしたらウェルパスが良いのではないでしょうか? また、それで充分です。しかし、消毒剤は一般的に手に噴霧後、拭かないで自然乾燥させて下さい。

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Q&A6.【感染予防としての鼻腔内へのイソジンゲル塗布について】

現在、感染予防として入院患者全員に鼻腔内のイソジンゲル塗布を行っています。しかし、この行為に対してコストは取れないと聞いています。それでも、する必要があるのでしょうか?必要があるにしろ、ないにしろその理由を教えてください(データ等に基づいた理由をお願いします)。

MRSA感染症専門家(医学部教員)コメント】

感染予防として入院患者さん全員にイソジン塗布を行なうというのは明らかに行き過ぎだと思います。検出された患者さんで、しかも大きなオペを控えている様な状態の患者さんに限って行なわれるべき行為です。また、院内感染対策にかかるコストと院内感染によって被害を受けた、または受けている患者さんにかかるコストは別に考えるべきものです。データに基づいた意見ではありません。といいますのは、入院患者さん全員に塗沫している病院とそうでない病院のデータがありません。また「無条件に全員塗沫」は医療行為でもなく、院内感染対策でもありませんので、そのようなデータが学会発表されることはないと思われます。

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Q&A7.【点滴ライン感染予防における消毒剤の使用法について】

点滴ラインに使用している三方活栓(三活)から側注する際、三活のキャップをとり消毒して注射しています。その時にイソジンを使用していますが、イソジンは乾燥しないと殺菌効果はないと聞いております。しかし、乾燥するまで待てずに使用することが多く、その際にはアルコール綿で一旦拭いて注射しています。この注射の際にイソジンが血液へ入り悪影響を及ぼす事はあるのでしょうか?またエタノールとの殺菌効果はどちらがあるのでしょうか?

MRSA感染症専門家(医学部教員)コメント】

イソジンは乾燥しなくても効果があります。乾燥しなければ効果がないというのは単なる噂(?)でしょう。イソジンで消毒しなくても消毒用アルコールで充分です。しかし、イソジンでもアルコールでも消毒時間に最低1分間はかける必要があります。イソジンがごく少量血液に入ったとしても、さほどの影響はありませんが、あくまで外用薬ですので注意されてください。その点ではアルコールのほうが無難だと思います。アルコールの場合、蒸発しますからなるべく作り立てのものを使用して下さい。普通の細菌に対しては、イソジンとアルコールのどちらも同じ程度の効果(よく殺菌できる)があるでしょうが、胞子形成菌、真菌、ウイルス等についてはイソジンの方がより効果があります。

【看護師(国立病院外科系病棟勤務歴9年)コメント】

三方活栓のないY管から注射できる点滴ルートがあることをご存知ですか?三方活栓のふたのディスポがあることをご存知ですか?イソジンの消毒がどのような手技でされているのか、ご相談内容からはわからないのですが、業務が煩雑になるとかえって十分な消毒ができなくなってしまいます。そのような十分でない消毒はあまり意味がないかもしれませんね。また、三方活栓を消毒しても、注射する人の手がきちんと手洗いされていなければ意味がなく、反対に院内感染の原因になることも考えられます。

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Q&A8.【便培養でMRSA(3+)が検出された際の消毒法・院内感染予防について】

便培養からMRSA(3+;菌数100万以上/ml)が検出された場合、排泄物の消毒方法、院内感染予防の注意点などについて教えて下さい。(医療従事者)

MRSA感染症専門家(医学部教員)コメント】

便培養からMRSAが検出される多くの場合、鼻腔や咽頭にMRSAが付着しています。この部分を除菌しない限り、便からの排出は止まらないのではないかと思います。これらは、医薬品であればムピロシンでの除菌、非医薬品であれば濃いお茶での除菌が可能です。排泄物の消毒は、ヒビテンアルコールで充分だと思います。また、院内感染の基本は、処置前後の手洗いです。特に処置前の手洗いが重要です。院内感染を徹底するためには、院内感染の教育が必要になりますし、これが理解されないと院内感染対策は机上の空論になってしまうでしょう。

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Q&A9.【新生児のMRSA感染予防策での沐浴とガウンテクニックについて】

NICSの勤務者です。現在、MRSAが蔓延しつつあり日常の沐浴時の対応について考えさせられる点がありましたので、ご相談お願いいたします。咽頭、便、臍よりの培養でMRSAが検出された児の沐浴時の対応で、沐浴後にはかけ湯をする必要がある、それはまったく必要がないと意見が分かれています。専門家よりのご意見お願いいたします。また、そのような児の日常の対応としてガウンテクニックはどの程度まで必要なのかご意見ください。

MRSA感染症専門家(医学部教員)コメント】

NICUでもMRSAの蔓延は、本当に大きな問題です。しかし、あまりに検出頻度が高いため、学会自体がさじを投げ出している状態です。実際に看護なさっている方にとっては、そんな無責任な対応はとれませんね。まず、NICUの感染源ですが、これは便の可能性が最も高いと思います。所謂、糞口感染です。鼻腔や咽頭感染から腸管内感染へ移行し、これが便に検出されます。この便から更に鼻腔、咽頭へ移行し、これがNICUで繰り返されます。このことを考えますと、NICUの院内感染は100%医療従事者によって伝播されていることになります。この認識が最も重要です。このサイクルを断ち切ることが出来れば、NICUの院内感染は激減するでしょう。処置する前に手洗いです。もしくは使い捨て手袋の着用ですが、処置後は廃棄する必要があります。処置後の手洗いは良く言われることですが、それよりも処置前の手洗いが子供を守るには重要です。さて、ご質問の件ですが、沐浴後のかけ湯にどれほどの効果があるのかは解かりません。しかし、MRSAの除菌もしくは菌数の減少を考えれば、汚染された湯に入っていたわけですから、それをかけ湯で希釈するという考えはできます。また、ガウンテクニックの件についても、細菌学的には効果があると考えられますが、現実的にはそれほどの効果があるとは考えられません。むしろ、手洗い、もしくは使い捨て手袋着用の方がもっと重要だと考えられます。NICU勤務者の手の調査をしたことがありますが、MRSAは医師からも看護婦からも検出されています。この手で処置されれば、MRSAは乳幼児には簡単に付着してしまいます。MRSAの問題の最も重要な点は何かを考えて、院内感染対策を行う必要があります。

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Q&A10.【易感染者に対しての予防的ムピロシン軟膏塗布について】

易感染患者(ねたきり老人、IVH施行患者など)に対してMRSA感染予防のために、全員一律に月1回ムピロシン軟膏塗布することは効果的でしょうか?(外科病棟医師)

MRSA感染症専門家(医学部教員)コメント】

予防のためにムピロシンを使用することは、お勧めしません。ムピロシンは耐性菌の出現しやすい抗菌剤ですし、既にプラスミド性の耐性遺伝子が広がってきています。ムピロシン耐性菌はまだまだ少ない状況ですが、使用すればするほど蔓延化することは過去の歴史からも明らかです。本当に除菌しなければならない時に、効かない状況を作り出す危険性は避けるべきでしょう。予防的に何らかの手を打つ必要がどうしてもある場合は、むしろイソジンの塗布程度で十分ではないでしょうか?寝たきり老人であれば、床ずれが問題になってくるでしょうが、これはイソジンでの洗浄、ピオクタニン(ゲンチアナバイオレット)での除菌が効果的です。また、IVHでは、ご存じのように留置期間とともに感染症の発症は増加します。目安は一週間ですが、最長でも2週間が限度ではないでしょうか。また、これらの床ずれ、IVHの感染が鼻腔内の保菌と関係しているのか、それとも医療従事者の衛生管理に起因しているのか、そのような問題も考える必要があります。どちらかといえば、医療従事者の原因の方が大きい可能性があります。

【看護職(外科系病棟勤務歴9年)コメント】

予防的に抗生剤を使用することは、更なる耐性菌を生産することになるのではないでしょうか? 院内感染に関しては、ほとんどが医療従事者の手を介して感染しています。ご多忙の勤務とは存知ますが、予防的に薬剤を投与するよりも、医療従事者が感染症に関して知識をもち、個々が適切な対応をしなければいけないのではないかと思います(手洗いの励行、必要時プラスティックグローブの使用など)。

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Q&A11.【診療科別の院内感染対策マニュアルは必要か?】

病院の感染対策委員をしているものです。当院整形外科では、人工物の使用などの科としての特殊性のため、いったん感染などが起こると非常に難治だとの理由などから、院内のMRSA感染対策マニュアルとは別に、保菌者も含めた個室管理、保菌者も含めてMRSA患者の入院は極力避ける、その他からなる別マニュアルを使用しています。そのような、科による特殊性を考慮した複数のマニュアルでの院内感染対策の例を知りませんが、そのような例がありますでしょうか、また、妥当なものでしょうか。これを認めれば、各科がそれぞれの主張をしてしまうことにもなると思います。是非、御意見をお聞かせいただけますでしょうか。

MRSA感染症専門家(医学部教員)コメント】

院内感染対策で基本となっているスタンダードプレコーションもしくはダブルプレコーションをご存じだと思いますが、これを日本の施設で完全に実施するには無理があります。しかし、対策自体の基本概念は同じであり、これらを参考にした病院独自の対策を各病院で対応できる有益な対策を考え出す必要があります。この対策が本当に有用であれば、科によって別の対策を行う必要はありません。また、保菌者を管理する必要はありませんし、まして個室管理は行きすぎた処置だと思います。整形外科は骨を扱うオペとインプラントによって感染が起きやすく、一旦起きてしますと極めて直りにくい骨髄炎等が起きてしまいます。そのために、過剰に反応されているのでしょうが、その原因は患者ではなく、100%医療従事者にあることを認識すべきです。患者にさわる前に手洗いをすること、また処置が終わった後に手洗いをすることで院内感染のほとんどを防止できます。感染が起きてしまった場合でも、サイクリング療法とかピオクタニンを使った消毒方法もあります。治療方法を工夫することで感染者を治療することは可能ですし、それも院内感染を防止する方法です。なんといっても患者に責任を転嫁するのではなく、院内感染の最大の責任は医療位従事者にあることを認識した対応が必要だと思います。

【看護職(外科系病棟勤務歴9年)コメント】

病院の特色などがあるでしょうから、どれが良いとは一概には言いにくい面がありますが、いずれにせよ貴院の場合のスタンダードマニュアルは必要ではないでしょうか?保菌者の取り扱い、発症者の取り扱い、隔離に関する取り扱いなどは各科共通でもよいのではないでしょうか?その他の科ごとの感染についてのマニュアルについても、合併症を持つ方に対して共通に使えるものにされると人事異動があった際にも使えるものになるのではないかと思います。なお、保菌者の隔離は必要ありません。環境整備と手洗いの励行で十分だと思います。病院では、院内感染の原因のほとんどが医療従事者の手からといわれています。感染対策は大変ですが、感染者がでると治療に関するコストもかかります。一行為一交換のプラスチック手袋の交換などは一見してコストがかかりますが、しかし、それ以上に遥かにコストがかかるのは、院内感染により患者様の治療費を病院が負担する事態を招くことでしょう。

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Q&A12.MRSA個室隔離時のリハビリ利用制限とリネン類の10時間放置処置への疑念】

髄膜脳炎で大学病院に入院した家族が近隣の療養型の病床に転院しました。後遺症が重く、ほぼ全身に麻痺があり、意識はあるものの、意思表示や、会話が成立する状態にありません。入院後、褥創(仙骨部)があっという間にひどい状態になり(約2cm-3cmの深さ)。先日、褥創からMRSAが検出されたと告知されました。治療として、創部洗浄時にバンコマイシンの散布を行うとの事。喀痰からは、緑膿菌が検出され、こちらは、ゲンタマイシンの点滴を短期間行うとの事。現時点で肺炎になってはいないとのことです。薬物感受性試験で、いくつか、効果のない薬があるそうです。元々個室に入っていたのですが、一般病棟内のリハビリ施設の利用を禁止されました。着替え、タオル等は自宅で洗濯していたのですが、ゴミを含め、一切の室内の持ち物は10時間以上置いてから持ち出すように指導されました。大きなビニール袋に入れて(消毒などはしません)、部屋のトイレ(未使用)に一旦置かされています。10時間おく、というのは何か効果があるのでしょうか?傷からの浸出液や血液等を考えると隔離は仕方ないのでしょうか?

MRSA感染症専門家(医学部教員)コメント】

リハビリ施設の使用は褥創部位が落ち着くまで、見合わせたほうが良いと思います。これは、第三者への感染を防ぐという意味で重要なことです。ご理解下さい。また、10時間以上を経て持ち出し可能という意味は、MRSAが乾燥状態で10時間すれば菌数が減少するということでしょうが、残念ながらほとんどのMRSAはその程度では死にません。従って、ほとんど意味がないといっても過言ではないでしょう。褥創の治療方法は色々な方法がとられていますが、バンコマイシンの直接塗布をおこなう状態であれば、一般的に使用されているイソジン、イソジンシュガーでは効果がないほど、浸出液が多かったものと考えられます。その場合、ピオクタニン(青紫色)が効果を発揮することがありますので、担当医に聞いてみて下さい。

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Q&A13.MRSA除菌でのムピロシン軟膏使用後の対応】

MRSA保菌者《喀痰より検出》の除菌作業の一つとして鼻腔へのイソジンゲル塗布を行っていましたが、ムピロシン軟膏に変える予定です.能書きによれば13回鼻腔に三日間塗布した後培養検査をする、とあります。検査結果が出るまでは何もしないほうが良いのでしょうか。それともイソジンゲルの鼻腔塗布をしているほうがよいでしょうか。また、もし結果がまだ陽性であった場合は、すぐにムピロシン軟膏の鼻腔塗布をおこなってよろしいのでしょうか。よろしくおねがいします。*脳神経外科病院 検査科

MRSA感染症専門家コメント】

ムピロシン3日間塗布後の培養再検査期間中は待機して下さい。だいたい、それで除菌できているはずですから。再検査後でも除菌できていなければ、バシトラシン含有の軟膏剤、アクアチムクリームでも除菌可能です。このような抗菌剤が全て無効であれば、0.1%ピオクタニンの塗沫も可能です。ムピロシン3日間で除菌できなければ、再度ムピロシンを使用しても消える可能性は少なく、かえってその耐性菌の選択になりますから、再使用は極力避けて下さい。

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Q&A14.【在宅医療での吸引チューブの消毒・保管法について】

在宅での吸引の消毒について質問があります。在宅で誤嚥性肺炎を起こし、吸引が必要になる場合がありますが、チューブの交換は、1日に1回交換頻度程度になります。また、チューブを保管するためにつけておく消毒ですが、その先生によっても全く対応が異なりますし、細菌検査も実施しないケースが多いと認識しています。感染している細菌などがはっきりしていない場合、どのような消毒液を使用して吸引チューブを保管すればよいでしょうか?- 訪問看護師

MRSA感染症専門家(医学部教員)コメント】

一般的な吸引チューブの消毒方法は、ザルコニン液0.1(補注:「ザルコニン」は商品名。0.1%塩化ベンザルコニウムに8%消毒アルコールを添加した製品。製造・発売元は健栄製薬)使用します。吸引後、汚染物質を除くために外側を消毒エタノール(アルコール)できれいに拭き取り、滅菌水(注射用蒸留水)で中の汚染物質を除くために吸引を行います。その後、ザルコニン液0.1につけておきます。ザルコニン液も緑膿菌やセパシア菌が増殖するため、24時間以内には作り変えてください。滅菌水はその場限りの使用にして下さい。再使用する場合、ザルコニン液を除去する目的で、滅菌水での洗浄、吸引を行います。これで、再使用可能です。

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Q&A15.【疥癬患者退院後の病室、リネン類消毒の有無とその根拠】

職場で疥癬についてのマニュアル作りを行っています。病棟では疥癬の患者さんが大部屋にいることもあります。疥癬の患者さんへの治療・処置についてのマニュアルはありますが、疥癬患者さんが退院した後の病室やリネン類の消毒は必要なのでしょうか?また、室内はバルサン等の殺虫剤を使用して消毒した方がよいでしょうか?お答えとその根拠を教えて下さい。(医療従事者)

【寄生虫学専門家(医学部教員)コメント】

疥癬は、疥癬虫に寄生されているヒトと密接に接触すると感染します。しかし疥癬虫は乾燥に弱く、ヒトの体を離れると比較的短時間で死んでしまうので密接な接触がなければ感染しません。よって同居している家族が感染することが多く、寝具や衣服を洗濯しないで共用したりしても感染することがあります。 

・温度25度、湿度90%の条件で3日間、湿度30%では2日間生存します。 

・温度12度、高湿度の条件では14日間も生存が可能です。 

・温度50度の条件では、湿度に関係なく約10分で死滅します。

・卵は乾燥状態でも1週間も生存しています。

疥癬に関して言えば、診断がついた患者さんに対して正確に治療を行えば虫体は激減し感染力が低下しますので、退院された方のリネン類の消毒は特に必要なく通常の洗濯で十分です。ご心配なら加えて乾燥機を使用される程度でよいでしょう。また、退院後の部屋の薬品を使った消毒や殺虫剤の散布も必要ありません。日常的な換気や掃除によって常に清潔さを保つことを心がけられてください。

  一方、ノルウェー疥癬の場合は感染力が非常に強いので、患者さんの厳重な隔離を必要とします。ノルウェー疥癬も普通の疥癬もおなじ疥癬虫(ヒゼンダニ)によっておこる皮膚感染症ですが、患者さんの皮膚(角質層)に寄生している疥癬虫の数がまったく違います。通常、疥癬の患者さんについている疥癬虫の数は重症でもせいぜい1000匹くらいですが、ノルウェー疥癬では100~200万匹にもなります。寄生している虫体の数が多いので感染力も強く、病棟にひとりノルウェー疥癬の患者さんが発生すれば、あっという間に医療スタッフ、他の患者さんにも感染します。

ちなみにノルウェー疥癬の患者さんから感染して発症してもそれは通常の疥癬です。健康な人がノルウェー疥癬にかかることはなく、免疫不全あるいは各種治療などで免疫力の低下した状態にある人が疥癬にかかったときに起こります。ノルウェー疥癬の患者さんは個室に隔離しますが、その際それまで使用していたベッドには虫体がついている可能性が高いのでベッドごと移動させた方がよいでしょう。また、ベッド・床・壁・カーテンなどは、ノルウェー疥癬患者さんが退室後、立ち入り禁止にして2週間も待てば、人体から離れた虫体がすべて死滅しますので殺虫剤の散布は不要です。

しかし、患者さんが使用したものを別の患者さんがすぐに利用せざるを得ない場合、あるいは同室の患者さんへの心配りとしては、洗濯できる物は熱湯処理(約10分)、または薄いクレゾール液(2~3時間)で消毒後洗濯するようにしましょう。床や壁などは疥癬に効果の高いピレスロイド系殺虫剤(ペリメトリンを含有するエアゾール・ゴキブリジェット、スミスリンは1回散布)などを噴霧してから用いてください。スミスリンは粉状の薬剤ですので使用の際はごく薄く散布し、しばらく置いてから掃除機で除去するとよいでしょう。疥癬虫には虫除けスプレーは無効です。このように、疥癬とノルウェー疥癬とでは深刻さが異なることを考慮のうえ対応されてください。

【看護師(訪問看護ステーション所長)コメント】

寄生虫学専門家が詳細にコメントされておりますように、疥癬には一般的な疥癬とノルウェー疥癬とがあり、それぞれは対応が異なることを念頭におかれてください。おそらく、4人部屋で療養されているようですので、本件は通常の疥癬と仮定して、コメント致します。疥癬は、接触感染をしますので、ダニが自ら床などを歩行して同室者に感染させるということは考えなくてもよいと思います。ということは、より密接なケアをする立場にある看護師が媒介者とならないことにポイントを絞って対応を考えるべきでしょう。ノルウェー疥癬でない限りは、病室の環境整備を徹底することに努めることで予防は可能でしょう(具体的な対応につきましては専門家コメントをご参照下さい)。

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